アース国際特許商標事務所

雪子の場合-自分の名前を商標登録-

田中さんは、平成16年4月からイタリアンレストランを営んでいます。お店の名前は「パタスマトマ」で、ランチ時にはサラリーマンやOLに人気のお店です。

開店10周年を記念して、そろそろ2号店を出そうかどうか悩んでいた矢先、A株式会社から、田中さんのもとに内容証明郵便が届きました。

これは大変だ!!!このままでは、店名が使用できなくなってしまうかもしれない!!田中さんは、大急ぎで、弁理士に相談へ行きました。

田中さん落ち着いてください。先ずは、侵害の検討を行いましょう。

  1. A株式会社の商標登録には、異議理由、無効理由はなく、不正使用や不使用の可能性もありません。有効な権利に基づく権利行使であると考えられます。
  2. さて商標権の侵害とは、権原なき第三者が、指定商品等又はこれに類似する商品等について登録商標又はこれに類似する商標等を使用すること等をいいます(25条、37条)。
  3. 今回の事案では、田中さんは、A株式会社の登録商標と同一の商標「パタスマトマ」を指定役務と同一の「飲食物の提供」に使用しており、田中さんの行為はA株式会社の商標権を侵害しています。よって田中さんは、否認することはできません。

次は、権原があるかどうかの検討を行いましょう。

今回の事案では、田中さんは、A株式会社の商標登録出願前から、日本国内において商標「パタスマトマ」を「飲食物の提供」に使用していますね。また、田中さんには不正競争の目的もなさそうですし・・・。先使用権を有する旨の抗弁ができるかもしれません。

そうですよ!!私はもう10年も前から、この店名を使用しているんだ。

ただし!先使用の抗弁をするには条件があります。A株式会社の商標登録出願の際、現にその商標が田中さんの業務に係る役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている必要があります。「需要者の間に広く認識」とは、例えば一地方に及ぶ程度の周知性を有している必要があります。

浜松町界隈では相当な人気があって、ランチ時には行列もできるんだ。

う~ん・・・それでは難しそうですね。「先使用権に係る商標が未登録の商標でありながら、登録商標に係る商標権の禁止権を排除して日本国内全域においてこれを使用することが許されるという、商標権の効力に対する重大な制約をもたらすものであるから、当該商標が必ずしも日本国内全体に広く知られているまでの必要はないとしても、せいぜい二、三の市町村の範囲内のような狭い範囲の需要者に認識されている程度では足りない」と判断された裁判例もあります(大阪地裁平成9年12月9日判決)。今回は、残念ながら、先使用の抗弁はできませんね。

次は、交渉について考えましょう。

田中さんが今後も、継続して「パタスマトマ」を使用したい場合には、A株式会社に使用許諾を得るという方法があります。

使用許諾!?使用料を支払わなければならないのですか?

相手次第ですが、もちろんその可能性もあります。使用料を支払ってまで「パタスマトマ」の使用を望まないのであれば、商標の使用を中止して、店名を代えることを考える方が良いかもしれませんね。

店名を代える!?看板付け替えなんかで、お金がかかるじゃないですか。私の店ですよ!!なんで今さらっ、絶対に嫌ですよ!!!

田中さん、よく聞いてください。商標権の侵害は犯罪行為です。

お気持ちは分かります・・・長年使用してきた店名について、後から登録した者に、突然商標権侵害で使用中止を求められるのは、腑に落ちない、という田中さんの心情もよく分かります。がしかし、原則として、商標登録は早い者勝ちです。先に使用していた者ではなく、先に出願して登録した者に権利が付与されます。後の祭りですが、田中さんは「パタスマトマ」の商標を適切に登録しておくべきでした。店を開店した当初に登録しておけば、他人に商標登録されることもなく、また権利行使を受けることもなく、店名「パタスマトマ」を継続して使用できたのです。まぁ・・・今さら言っても仕方がないですね。今回のことは、今後の教訓としましょう。

さて、商標権の侵害は刑事罰の適用もある犯罪行為です。このまま無断で使用を継続していたら、損害賠償請求や不当利得等返還請求をされる可能性もあります。A株式会社と交渉をして使用許諾を得るか、あるいは商標の使用を中止するか、どちらを選択しますか?

ということで、このお話の結末は・・・

案件「パタスマトマ」

田中さんはA株式会社に使用許諾料を支払い、長年使用して愛着のある「パタスマトマ」の店名を継続して使用することを望んだ。

念願の第2号店は、新たな店名を「タタリアトマト」とした。なお、「タタリアトマト」は登録完了。