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作家志望 犬神の場合-本のタイトルの商標登録-

『腐吠』 犬神太郎

吾輩は犬である。名前はポチ。どこで生まれたかというと、犬小屋。なんでも梅雨のじめじめした日に、母犬の呻き声とともに、この世に産み落とされた。初めて肌に感じた感覚が、母犬の吐息だったのか、湿気の煩わしさだったのかは、いまだに見当がつかぬ・・・。

うん、いい感じだ。これなら新人賞を狙える!そして、ベストセラー間違いなしだ!

居ても立ってもいられなくなった小説家志望の犬神は、 古くからの知り合いである緑川弁理士のもとへ走った。

これは、これは、犬神君。久しぶりですね。創作活動は捗っていますか?

それがもう、順調すぎて!今回は商標登録をお願いしたいのです。

ほぉ、どんな商標を登録したいのですか?

「腐吠」です!!「腐る」に「吠える」でフハイと読みます!この世の腐敗を嘆き吠えるという意味です。私が考え出した造語です。

なるほど・・・それで、商標を使用する商品やサービスは決まっていますか?

商品というか、「腐吠」は本のタイトルです。

本のタイトル・・・本のタイトルを登録することは難しいですね・・・。

えっ?タイトルを保護することはできないのですか?

少なくとも商標法では・・・う~ん・・・タイトルの登録・・・。そうですね、タイトルを商標として登録するのであれば・・・例えば、定期刊行物のタイトルなどは、「書籍,雑誌,印刷物」などを指定商品として登録している例がありますね。 ご存知の「文芸春秋」は、第16類の「書籍,雑誌」を指定して登録しています。

では、それで登録してください。

ただし、タイトルを商標として登録できたとしても、後々、不使用取消審判で取消されてしまう可能性があります。不使用取消審判とは、継続して3年以上日本国内において登録商標の使用をしていない場合に、登録の取消を求めてする審判のことです。今回の場合、「腐吠」は本のタイトルなので、商標の使用と認められない可能性があります。

えっ!?

このような判例があります。

「商標の使用といい得るためには、当該商標の具体的な使用方法や表示の態様からみて、それが出所を表示し自他商品を識別するために使用されていることが客観的に認められることが必要である(東京高等裁判所平成2年3月27日判決)」と、そして、「通常、一般的に書籍の表紙には題号、著者名が、背表紙には、題号、著者名及び出版社名が、また、裏表紙には出版社名が表示されるものであることが認められる・・・(中略)・・・」

つまり、「腐吠」を書籍の表紙に表示した場合、需要者は、「腐吠」について本のタイトルであると認識することはあっても、この本の出所を表示しているとは考えないでしょう。なので、「腐吠」の使用が、商標の使用であるとは認められない可能性があります。

また逆を言うと、他人が本のタイトルとして「腐敗」を使用したとしても、商標法の規定では権利行使ができない可能性があります。他人が、タイトルとしての使用であって、商標として使用していないという主張が認められる可能性があるからです。

え、では、登録するだけ無駄ということですか?

う~ん、難しい問題ですが、登録できたとしても、登録後に権利行使することができないなど、問題が発生する可能性もありますね。

そうですか・・・こなったら、もう、有名になるしかないですね。ベストセラーになるしかない!「腐吠」といえば犬神の作品だ、と言わせるぐらいの大作を完成させますよ。

そうですね。それが一番です。

お手間を取らせてしまい、どうもすみませんでした。そうだ。先生、これは『腐吠』の原案です。もし宜しければ、感想を聞かせてください。ちなみに、私のサイン入りです。数年後、きっとプレミアがつきますよ。

ということで、このお話の結末は・・・

案件「腐吠の商標登録」

犬神君は、今回も新人賞を逃し、『腐吠』が世に出ることはなかった。ここだけの話、『腐吠』の原案を読んでみて、犬神君を見直した。内容・構成ともに完成度が高く、なお哲学的で面白かった。

ただ…今の世の中でベストセラーになるには、商業的な作品、つまり万人受けする作品を、書く必要があるのかもしれない。

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