アース国際特許商標事務所

スナックシャネル事件【不正競争防止法】

「シャネル」と言えば、誰もが知っている有名なブランドですね。フランスはパリのオートクチュールで、バッグ、香水、化粧品、時計などの高級ブランドです。

今回ピックアップする話題は、昭和59年におきた事件です。事は、被告となるYが「スナックシャネル」という飲食店を開いたことに始まります。

これに対して原告の「シャネル」側は、不正競争防止法に基づき、

「シャネル社と業務上,経済上あるいは組織上何らかの関係を有するものと誤認させ,もって原告の営業上の施設または活動と混同を生じるおそれ」

があるとして、使用差止と損害賠償を求めて提訴しました。

当時、日本でも既に「シャネル」は有名になっていたようなのですが、まさか、あの高級ブランドの「シャネル」が日本の地方に「スナック」を開店したなんて、はたして需要者は、どう思うでしょうか。「あの有名ブランドのシャネルの店だ」と思って店に入る人はいるでしょうか。

一審の千葉地裁では、「シャネル」側の主張が一部認められ、Yは、使用差止と損害賠償の支払いを命じられました。

控訴審の、東京高裁では(東京高裁平成6年09月29日平成6(ネ))、

「Yの営業の種類、内容及び規模等に照らすと、Yが本件営業表示を使用することにより、Yが、パリ・オートクチュールの老舗として世界的に知られ、高級婦人服を始めとして高級品のイメージを持たれている商品を取り扱うシャネル社と業務上、経済上あるいは組織上何らかの関係を有するものと一般消費者において誤認するおそれがあるとは到底認め難く、したがって、Yの本件営業表示の使用が、シャネル社の営業上の施設又は活動と混同を生ぜしめる行為に当たるものと認めることはできない。」

として、「シャネル」側の主張を退けました。

最高裁の判決

先ず、「シャネル」が著名な商品等表示であることは周知の事実であり、「シャネル」と「スナックシャネル」は類似している表示であると言えます。

となると問題は、Yの使用が「混同を生じさせる行為」であるかどうかになります。

最高裁の判決では(最高裁第一小法廷平成10年09月10日平成7(オ))、

「被上告人の営業の内容は、その種類、規模等において現にシャネル・グループの営む営業とは異なるものの、「シャネル」の表示の周知性が極めて高いこと、シャネル・グループの属するファッション関連業界の企業においてもその経営が多角化する傾向にあること等、本件事実関係の下においては、被上告営業表示の使用により、一般の消費者が、被上告人とシャネル・グループの企業との間に緊密な営業上の関係又は同一の商品化事業を営むグループに属する関係が存すると誤信するおそれがあるものということができる。したがって、被上告人が上告人の営業表示である「シャネル」と類似する被上告人営業表示を使用する行為は、新法二条一項一号に規定する「混同を生じさせる行為」に当たり、上告人の営業上の利益を侵害するものというべきである。」

と判断し、Yに使用差止と損害賠償を命じました。つまり不正競争防止法2条1項1号の「混同を生じさせる行為」には、「広義の混同」も含まれるということが明確になりました。

「広義の混同」とは、直接の競業関係がなくても、両者間に取引上、経済上あるいは組織上何らかの関係があると誤信させる混同のことをいいます。

これに対して「狭義の混同」とは、実際に競業関係が存在することを前提とした混同のことをいいます。

つまり最高裁の判決では、両者間に取引上、経済上あるいは組織上何らかの関係があると誤信させる混同であっても、2条1項1号の「混同を生じさせる行為」に該当すると判断したということですね。

(注)「スナックシャネル」事件については、現行法においては、2条1項2号の著名表示冒用行為に該当するかもしれませんが、事件当時は2号の規定がなかったので、1号に相当する規定で争われました。

現行法においては、「シャネル」のような著名表示の有する信用価値にフリーライドし、その価値を希釈化し、信用やイメージをおとしめるような行為は、2条1項2号の規定により防止されています。