アース国際特許商標事務所

著作権判例

中田英寿氏のパブリシティ権 東京地判平成12年2月29日 平成10年(ワ)第5887号

事件のあらまし

元サッカー選手の中田英寿さんの半生を綴った書籍についての事件です。書籍の中に、中田選手が中学時代に「学年文集」に掲載した詩を勝手に記載したことが問題となりました。中田選手は、書籍がパブリシティ権、プライバシー権、著作者人格権(公表権)、著作権(複製権)の侵害であると主張して、訴えを提起しました。

※パブリシティ権とは、有名人の氏名や肖像を財産的に利用する権利のこと。
※プライバシー権とは、私的な事柄をみだりに他人に知られない権利のこと。

判決

パブリシティ権

「本件書籍における原告の氏名、肖像等の使用は、その使用の目的、方法及び態様を全体的かつ客観的に考察すると、原告の氏名、肖像等の持つ顧客吸引力に着目して専らこれを利用しようとするものであるとは認められないから、仮に法的保護の対象としてのパブリシティ権を認める見解を採ったとしても、被告らによる本件書籍の出版行為が原告のパブリシティ権を侵害するということはできない。」として、パブリシティ権の侵害を認めなかった。

プライバシー権

「原告は、従来からプロサッカー選手になる以前の行動や写真につき一切公表したくないという基本的な考え方を持っており、プロになる以前の事柄については、取材を受けても一切話をしていないことに照らすと、原告の承諾が推定されるということは、到底できない。そして、私生活上の事実を公表されないという利益は、社会的評価の向上又は低下とは関係しないものであるから、本件書籍によって原告に対する社会的評価の低下がもたらされることがないとしても、そのことを理由にプライバシー権を侵害しないということもできない。」として、プライバシー権の侵害を認めた。

後に被告が控訴するも、控訴棄却で確定。

著作者人格権(公表権)

公表権の侵害行為は、まだ公表されていない著作物について著作者の同意を得ないで公表する行為であるから(18条1項)、すでに「学年文集」に掲載されて、すでに公開されている著作物については、公表権の侵害に該当しないとして、公表権の侵害を認めなかった。

著作権(複製権)

「本件書籍の読者は本件詩を独立した著作物として鑑賞することができるのであり、被告らが本件書籍中に本件詩を利用したのは、被告らが創作活動をする上で本件詩を引用して利用しなければならなかったからではなく、本件詩を紹介すること自体に目的があったものと解さざるを得ない。右のとおり、本件書籍のうちの本件詩が掲載された部分においては、その表現形式上、本文の記述が主、本件詩が従という関係があるとはいえない(むしろ、本件詩が主であるということができる。)から、被告らが本件詩を本件書籍に掲載した行為が、著作権法上許された引用に該当するということはできない。」として、複製権の侵害を認めた。

後に被告が控訴するも、控訴棄却で確定。

コメント

事前の取材・承諾をとらずに書いたというのもトラブルになる要因かもしれませんね。近年では、インターネット上のブログなどで、他人の記事や小説の一部を引用することも多いと思いますが、適切な「引用の範囲内」で行うことが必要です。また、もとの著作者の気分を害するような使用などは、トラブルの原因となりますので十分に気をつけたいですね。

「引用の範囲内」については、著作権法32条引用のページをご覧ください。

参考文献

『著作権判例百選第4版』編著:中山 信弘, 大渕 哲也, 小泉 直樹, 田村 善之