マドリッド・プロトコル(マドプロ)とは、商標の国際登録制度についての条約です。正式名称は「標章の国際登録に関するマドリッド協定の1989年6月27日にマドリッドで採択された議定書」と言います。この条約により、世界知的所有権機関(WIPO)に国際出願すれば、希望する他の締約国においても保護することができるようになりました。
マドプロ加盟国については、こちらのページをご覧ください。
単一の様式の願書を日本の特許庁に提出し、権利化を希望する国を指定すれば、複数の国において、商標の保護を受けることができます。各国へ直接出願する場合には、保護を希望する国ごとに、その国の定める様式や言語で願書を作成し、それぞれの国の代理人に依頼して、出願手続きをしなくてはなりませんが、そのような手続の煩雑さがありません。
出願手続きがひとつで済むため、各国に直接出願する場合より、費用が安価になります。各国言語への翻訳費用や、各国代理人の費用も出願時には発生しません。費用については、マドプロ出願の費用をご覧ください。
各国別に出願した場合には、審査期間に制限のない国もあり、審査に長期間を要す場合もありますが、マドリットプロトコルによる出願の場合には、指定締約国の官庁は、拒絶理由がある場合、拒絶理由の通知期間が定められているので、各指定締約国における審査は迅速に行われ、早期権利化が可能となります。
国際出願は、更新や、名義変更等、全て国際事務局で記録・管理されるので、各国での管理が必要ありません。
出願時に指定しなかった締約国に対して、事後指定の手続きをすることにより、指定締約国を拡張することができます。さらに、自国での商標出願、商標登録の指定商品・サービスの範囲内であれば、指定商品・サービスの追加も可能です。
国際登録出願をしようとする商標と同一の商標が、日本において、商標登録、商標登録出願、防護標章登録、防護標章登録出願されていることが必要です。また、以下の条件を満たす必要があります。
このうち(2)の商標の同一性は厳格に判断されます。例えば基礎出願の商標が片仮名文字であるのに対し、国際登録出願の商標がアルファベット文字であったり、基礎出願の商標が行書体の漢字であるのに、国際登録出願の商標が草書体の漢字である場合には、同一性が認められません。
従って、マドリッド協定議定書による標章の保護を予定している場合には、基礎登録・基礎出願の標章の選択には、上記の点を留意する必要があります。
また、(3)にあるように、指定商品・サービスの範囲が、基礎出願の指定商品・サービスの範囲に限られるため、国際出願時にその範囲を拡大することはできません。
出願言語は、英語、フランス語、スペイン語です。日本国官庁は英語を選択しているので、英語で願書を作成しなくてはなりません。指定商品を英語に翻訳するという困難な作業が発生します。
国際登録出願の出願手数料は、世界知的所有権機関(WIPO)へスイスフラン建てで、出願前に納付する必要があります。また、WIPOへの手数料納付の他に、特許庁への支払いを特許印紙で納付する必要があります。
マドリット協定議定書に加盟していない国においては、国際登録を受けることができません。
簡単にご説明すると、下記のような手順になっております。
マドプロ出願と直接出願の違いについて、分かりやすく図解してあります。こちらの【直接出願とマドプロ出願のフローチャート】をご覧ください。
主な手続には次のようなものがあります。
出願手続き日本特許庁へ郵送で提出します。この場合、日本特許庁に到達した日が提出日となります。(発信主義ではないため、期限がある場合には、必ず期限までに、特許庁へ届くように注意する必要があります。)
手数料には、国際事務局へ支払うものと、本国官庁へ支払うものがあります。国際事務局への手数料は、願書を送付する前に、国際事務局へ送金しなくてはなりません。本国官庁への手数料は、前述のとおり、特許印紙を貼付した用紙を願書に添えて、郵送します。
日本特許庁からの指令への応答手続出願手続きを終えると、日本特許庁は手数料や書類の方式的なことを審査します。この時不備がある場合には、次のような通知を発送します。
日本特許庁へ支払う手数料が納付されていない時、又は金額が不足している時には、手数料補正指令が名義人に出されます。これに対して、指令日(発送日)から14日以内に、手続補正書を提出して納付をしなくてはなりません。補正手続きをしなかった場合には、国際出願は却下処分となります。
日本特許庁は、下記の点に関し、願書の内容を確認します。
不備があるときには、方式不備通知が出され、これに対して、通知日(発送日)から14日以内に、差替書面提出書を提出し、願書の訂正ページを差し替えなくてはなりません。差し替えが行われなかったときには、国際出願はそのまま国際事務局に送付されます。その後、国際事務局から欠陥是正通報が送付され、3か月以内に不備が是正されないときには、その国際出願は放棄されたものとみなされます。
国際事務局からの指令への応答手続日本特許庁から国際出願が送付された後、国際事務局は、その国際出願について方式審査を行い、欠陥がある場合には、日本特許庁と名義人にその旨を通知します。
国際出願の指定商品、サービスが、正しい分類に区分されていない、分類番号をつけていない、又は分類番号が間違っている等の場合には、国際事務局は、その旨を日本特許庁と、名義人に通知します。さらに、日本特許庁はその通知を名義人に送付します。通知を受領したら、名義人は、通知の発送日から14日以内に、「国際事務局から出された提案に同意する」、「該当する商品を削除する」、もしくは「修正して、分類に欠陥がない旨を主張する」等の内容の、意見書を提出することができます。このような意見書を提出しなかった場合には、国際出願は放棄されたものとみなされるので、注意が必要です。
国際出願の指定商品・サービスが、「分類上きわめて不明確」「理解できない」「語学的に不正確」であると判断された場合には、国際事務局は、日本国特許庁と名義人に対して、用語を修正、又は削除するよう通知します。これに対して、名義人は、通知の発送日から14日以内に「国際事務局の提案に同意する」「用語を修正する」「該当する指定商品・サービスを削除する」という内容の意見書を提出できます。また、この意見書の内容によっては、さらに欠陥の通知が出される場合があります。
国際事務局は、その他、下記のような欠陥に関しても、名義人に通知します。
名義人は、通知をもらったら、3カ月以内に意見書を提出して、これらの欠陥を是正しなくてはなりません。期限内に是正されない場合には、優先権主張については記録されなかったり、その他の欠陥の場合は、その国際出願は取り下げられたものとみなされます。
登録日がいつになるかは、状況により変わります。国際事務局が日本特許庁から国際出願を受理した日が、日本特許庁が国際出願を受理した日から2月以内である場合、日本特許庁が受理した日が、国際登録日となります。
これに対して、国際事務局が、国際出願を、日本特許庁が受理した日から2月以内に受理しなかった場合には、国際事務局が受理した日が国際登録日となります。(日本特許庁からの指令に対して、名義人の応答が遅れた為、日本特許庁から国際事務局への、国際出願の送付が遅れた場合等がこのパターンです。)
存続期間は国際登録日から10年です。10年ごとに更新することができます。
拒絶通報後の手続については、国際事務局ではなく、その指定国の官庁へ直接応答します。拒絶通報に記載された内容、応答方法、期間などに気をつけて、対応する必要があります。現地の代理人に依頼して、対応してもらうとよいでしょう。(多くの場合、拒絶通報に対する応答は、指定国の領域内に連絡先を有する現地代理人を通じて行うことを、指定国官庁により要求されています。)
指定国官庁は、国際登録が通報された日から1年以内に拒絶通報をしなければならないことになっていますが、一部のマドリッド協定加盟国は、この期間を18カ月と宣言しており、拒絶通報の期間を18カ月、場合によっては、それ以上とすることを認められています。
拒絶理由は各国毎にそれぞれ異なる部分もありますが、一般的には識別性のない標章、普通名称、商品やサービスの品質、目的、価格、産地などを記述しているだけのもの、消費者をだますようなもの、公序良俗に違反するもの、商業上の公正な慣習に反するもの、国や国際機関の旗や紋章からなるもの、先に出願された商標と同じ又は似ているもの、有名な第三者の商標と似ているものなどが該当します。
マドリッドプロトコルの言語は、英語、フランス語又はスペイン語でなければならず、これは出願人が選択することもできますが、官庁も選択できます。従って、指定国官庁が作成した拒絶通報の本文は、その官庁が選択する言語で記載されることになります。
指定国官庁に直接連絡をして、担当者とその拒絶通報を解消できる方法を相談するとよいでしょう。商品又はサービスを減縮することにより、拒絶理由を回避できるのであれば、国際事務局を通じて、「商品又はサービスの一覧表の減縮登録の請求」を行うことができます。(Limitation)これは、一部または全部の指定国について減縮することを意味します。国際登録された商品、サービスが抹消されるわけではないので、減縮された商品又はサービスはその後、事後指定の対象とすることができます。尚、国内法によっては、このLimitationという手続を拒絶通報への応答と認めない場合もありますので、現地代理人に確認することをお薦めします。
できません。指定商品又はサービスは狭くすることはできますが、拡張、もしくは追加は認められておりません。しかしながら、文言の変更を認めないというわけではなく、当初の概念の範疇に相当する範囲内であれば文言の変更は認められます。
国際登録の商品及びサービスの区分の判断は国際事務局に委ねられているので、指定国官庁が区分について反対をしているとしても区分が変更されることはありません。指定国官庁や、現地代理人に対応方法を相談するとよいでしょう。また、拒絶通報が用語の広範さや曖昧さに基づく場合には、より厳密で正確な用語に変更することになります。
拒絶通報期間内に指定国官庁から拒絶通報等が通知されないときは、その商標は国際登録された全ての商品又はサービスに関して当該指定国において保護されたと考えてよいでしょう。
指定国官庁は、その商標に関しなんらの拒絶理由も発見しないときは、「保護認容声明」というものを送付することを義務付けられています。ただし、声明を送付しなくても、指定国官庁になんらの法的責任が生じることはありません。仮に拒絶通報が拒絶通報期間内に送付されない場合には、当該指定国において自動的に保護が与えられたということになります。
本国において、国際商標登録の基礎となった商標出願及び商標登録が、その国際登録の日から5年以内に、拒絶、取下、放棄、無効、取消となった場合には、その国際登録も取り消されるというマドリッドプロトコル上の制度です。(68条の32 及びマドリッド協定議定書6条)このセントラルアタックへの対応として、出願人は、取消日から3カ月以内に、国際登録された商標、及び指定されていた商品等の範囲に含まれる指定商品について、各指定国に個別出願をする必要があります。詳しくは、セントラルアタックのページをご覧ください。
代理人の選任の手続は、国際出願、事後指定、名義人変更申請をする時、その他、登録後に何らかの変更手続をする時に、その手続書類に代理人を記載することによって、選任できます。これにより、それまでに選任されていた別の代理人は取り消され、新しい代理人が登録されます。また、上記手続以外の時に変更したい場合には、MM12という手続書類で行うこともできます。ちなみに、国際登録の代理人は一人でなければなりません。複数名が記載されている時は、筆頭の一名が代理人とされます。
ライセンスの登録は、登録名義人が直接、国際事務局に対して行うことができます。また、ライセンスが許諾された指定国官庁や、名義人の指定国官庁により手続することもできます。さらに、ライセンシーもその指定国官庁に対し、手続することができます。(その場合は、指定国官庁が、そのライセンシーがライセンシーとしての資格を有するかを確認した後、国際事務局に送付します。)手続書類は、MM13という様式を使用します。MM13に、国際登録番号、名義人名、ライセンシーの住所、氏名、ライセンスが許諾された指定国、商品・サービス、ライセンスの期間などを記載します。尚、同じ名義人の複数の国際登録において、ライセンシーやライセンスの指定商品・サービスが同一である場合や、ライセンスの指定国が同一である場合には、一つの書類でライセンス登録を済ませることができます。