アース国際特許商標事務所

BOSS事件【ノベルティと商標の使用】

事件のあらましは、楽器の製造販売会社甲が、楽器の購入者に対して、「BOSS」のロゴを付したTシャツを無料で配布したことに始まります。

これに対して、「洋服」等について「BOSS」の商標登録(第695865号)を有する原告は、甲を相手に、商標権侵害とする訴えを起こしました。

ここで問題となるのが、ノベルティとして無料で配布されたTシャツに、「BOSS」の標章付して譲渡することが、商標の使用に該当するのかということです。

商標の使用については、商標法2条3項に掲げられています。

  1. 商品又は商品の包装に標章を付する行為
  2. 商品又は商品の包装に標章を付したものを譲渡等する行為
  3. 役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に標章を付する行為
  4. 役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に標章を付したものを用いて役務を提供する行為
  5. 役務の提供の用に供する物に標章を付したものを役務の提供のために展示する行為
  6. 役務の提供に当たりその提供を受ける者の当該役務の提供に係る物に標章を付する行為
  7. 電磁的方法により行う映像面を介した役務の提供に当たりその映像面に標章を表示して役務を提供する行為
  8. 商品若しくは役務に関する広告、価格表若しくは取引書類に標章を付して展示し、若しくは頒布等に提供する行為
  9. 音の標章にあつては、前各号のほか、商品の譲渡若しくは引渡し又は役務の提供のために音の標章を発する行為
  10. 前各号に掲げるもののほか、政令で定める行為

しかし、そもそも商標というものは、

  • 業として商品を生産し、証明し、又は譲渡する者がその商品について使用をするもの
  • 業として役務を提供し、又は証明する者がその役務について使用をするもの

と2条1項で規定されているように、「業として」使用するものをいいます。一般的に、「業として」の解釈としては、下記の3点が挙げられます。

  1. 不特定多数人を対象とすること。
  2. 反復継続の意志をもつていること。
  3. 対価をとること。

ノベルティの場合、それ自体を譲渡等することにより対価を得ていないので、「業として」の要件を満たしておらず、そもそも商標に該当しない可能性があります。

この裁判の要点は、無料のノベルティに付した標章が、出所表示機能などを有する商標に該当するかどうかという点です。

裁判所の判断

裁判所の判断は、下記の通りです。

「商標法上商標は商品の標識であるが、ここにいう商品とは商品それ自体を指し商品の包装や商品に関する広告等は含まない。(中略)ある物品がそれ自体独立の商品であるかそれとも他の商品の包装物又は広告媒体等であるにすぎないか否かは、その物品がそれ自体交換価値を有し独立の商取引の目的物とされているものであるか否かによつて判定すべきものである。」

要約

商標というのは、「商品」の標識のことをいいますが、ここでいう「商品」には、「商品の包装や商品に関する広告等」は含まれません。ある物品について、「商品」なのか「商品の包装や商品に関する広告等」なのか判断する際には、その物品自体が、「交換価値を有し、独立して商取引の目的物とされているか否か?」によって判定すべきであるとされました。

「被告は、前記のとおり、BOSS商標をその製造、販売する電子楽器の商標として使用しているものであり、(中略)Tシヤツ等は、それ自体が独立の商取引の目的物たる商品ではなく、商品たる電子楽器の単なる広告媒体にすぎないものと認めるのが相当であるところ、本件商標の指定商品が第一七類、被服、布製身回品、寝具類であり、電子楽器が右指定商品又はこれに類似する商品といえないことは明らかであるから、被告の前記行為は原告の本件商標権を侵害するものとはいえない。」

要約

本件の場合、Tシヤツ自体は、独立して商取引の目的物たる商品ではなく、楽器を販売する際の単なる広告媒体であり、「楽器」について「BOSS」の使用(2条3項8号)であったとしても、「被服」について「BOSS」の使用とはいえない。

となると、原告商標権は「被服」についての権利であるので、原告の商標権を侵害しているものではない、と判断されました。

今回の場合、「楽器」という商品の販売に付随する宣伝広告的な使用ということで、ノベルティ自体は、商標法上の「商品」には該当しないということですね。