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横取り商標

他人の商標を勝手に登録できるのか? 青山くん

(道義的な問題は別として)登録することは可能です。商標登録は、原則、早い者勝ちです。先に出願した者に登録が認められます。たとえ10年前から使用していたとしても、他人に先に出願・登録されてしまえば、その商標を使用できなくなってしまいます(先使用権が認められる場合もありますが「有名であること」という条件を満たしている必要があります)。

つまり、他人が使用している商標であったとしても、その他人が商標登録していない場合は、先に出願することにより登録できてしまうのです。

例えば、特許法には、他人がした発明を勝手に出願すること(冒認出願)は認められない旨の規定があります。冒認出願は、拒絶・異議・無効理由です。審査の段階で拒絶されます。仮に登録になったとしても、異議申立や無効審判などで取消・無効にすることができます。

その点、商標法には、そのような規定はありません。

どうして商標法には、冒認出願という概念がないのですか? 青山くん

特許の場合、発明をした時点で発明者に「権利(特許を受ける権利)」が帰属します。これに対して商標法では、商標を選択した時点では「単なる選択物」であり、登録されて初めて「権利(商標権)」が付与されます。

商標の場合、商標を選択した時点で権利(商標を受ける権利)を与えてしまうと、「私が一番最初に、その商標を使用し始めた」「私の方が先に使用していたのに、勝手に出願された」など、誰が権利(商標を受ける権利)を有しているのか?その出願は悪意あるものなのか?などを立証するのが、発明に比べて、非常に困難です。

せっかく商標登録されたのに「その商標は私の方が先に使用してました。横取り的に登録されました」ということで情報提供・異議申立・無効審判が頻発すると、審査・審理の遅延につながり、また法的安定性を欠き、ひいては需要者の利益を害する結果になりかねません。

そこで商標法では、先願主義(先に出願した者に権利を与えるという主義)をとり、先に出願した者に権利を付与することにしているのです。つまり、「使用する商標は、早めに登録してください。」「大切な商標は、必ず登録してください」ということです。

他人に勝手に商標登録された場合、泣き寝入りするしかないのですか? 青山くん

いいえ。必ずしもそうとは限りません。あなたの商標が有名・著名である場合は、その商標を他人が出願したとしても登録が認められない可能性があります。また、仮に登録されたとしても、その商標を取消したり無効にしたりできる可能性があります。

  • 4条1項7号
    「公の秩序又は善良の風俗を害する」おそれがある商標は登録を認めない旨の規定です。他人に横取り的に出願された場合は、先ずこの規定の「公序良俗」が頭をよぎる人もいるでしょう。しかしながら本規定は、そもそも、商標自体が「公の秩序又は善良の風俗を害する」おそれがある場合に、そのような商標に権利を付与しないことを目的として設けられた規定です。よって、反道道徳的な横取り出願であっても、必ずしもこの規定で拒絶・取消・無効にできるわけではありません。特に近年の裁判例においては、私的な問題(トラブル)については本号の「公序良俗を害する」には該当しないと判断される傾向にあるようです。
  • 4条1項10号
    未登録周知商標を保護するための規定です。つまり、商標登録していない有名な商標を、他人が勝手に登録することは認められない、という規定です。ここでいう有名とは、全国的とまではいかなくとも、すくなくとも一地方(中国地方・関東地方など)で広く認識されている程度をいいます。有名商標と同一商標に限らず、類似商標の場合も、この規定が適用されます。また、同一商品・役務に限らず、類似商品・役務にも適用されます。つまり、有名商標が「A」で商品が「りんご(果物)」であり、横取り出願が「A'」で商品が「バナナ(果物)」の場合にも、本号の規定に該当するとして登録が認められません。
  • 4条1項15号
    「出所混同を生ずる」おそれがある商標は登録を認めない旨の規定です。この規定も、有名であることが必要です。10号との違いは、この規定は、非類似商品について適用されるものであるということです。例えば、有名な商標が「果物」についての商標である場合、他人がその有名な商標を「果物」とは非類似の「化粧品」について登録してしまうと、需要者は、両者に経済的又は組織的に何等かの関係があるのかなと誤認し、出所混同を生ずるおそれがあります。このような場合には、本号の規定に該当するとして登録が認められません。
  • 4条1項19号
    著名商標を保護するための規定です。例えば、海外で著名な商標について、まだ日本で登録されていないことをいいことに、他人が「不正の目的」をもって勝手に出願した場合などは、本号の規定に該当するとして登録が認められません。著名というのは、必ずしも日本で著名である必要はありません。海外のいずれかの国で著名であれば認められます。複数の国において著名であることは要しません。

このように、仮に他人に横取り的に登録されたとしても、あなたの商標が有名・著名である場合は、10号、15号、19号などの規定により、他人の登録を取消したり、無効にしたりすることができるのです。では、有名でない場合は??それは・・・「大切な商標は、早めに出願しましょう。」ということですね。

まとめ 青山くん

商標の保護対象は、その商標に化体した信用にあります。その信用を保護することにより、商標を使用する者の業務上の信用の維持を図り、もって産業の発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護することを目的としています。

長年の商標の使用により、やっと信用(顧客吸引力)を得たのに、その商標を他人に横取り的に登録されたら辛いですよね。今回は、その商標が有名・著名な(顧客吸引力が高い)場合は、いくつかの救済手段はあるということを分かっていただけたでしょうか。しかしながら、審判や裁判で争うのは、労力と費用がかかります。大切な商標は、必ず、早めに登録しておきましょうね。

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